上咽頭擦過治療（EAT）

上咽頭になぜ炎症が起きるのか

上咽頭とは、鼻の奥からのどにかけての空間で、いわば「鼻とのどの境目」にある部位です。外からのウイルスや細菌の侵入を防ぐ重要な役割を担っていますが、その分、炎症も起きやすい場所でもあります。
風邪やアレルギー、ストレス、生活習慣の乱れなどをきっかけに、上咽頭が慢性的に炎症を起こすと、全身にさまざまな不調を引き起こすことがあります。代表的な症状には、後鼻漏（鼻水がのどに流れる感じ）、のどの違和感、嗄声（声が枯れる）、慢性的な咳や頭痛、微熱、倦怠感などがあります。

慢性上咽頭炎の診断

慢性上咽頭炎の診断は後鼻漏や咳、咽頭痛、嗄声（談話中に声が枯れたり、話しにくい）、咽喉頭違和感、咳・血痰など慢性上咽頭炎を疑う症状が1ヵ月以上あり、鼻咽腔内視鏡検査で上咽頭の炎症所見を認め、かつ上咽頭擦過で出血を認めることでなされます。

上咽頭擦過治療（EAT）とは

EATは、慢性的な炎症を起こして腫脹している上咽頭の粘膜に、1％の塩化亜鉛を含んだ医療用綿棒で直接刺激を与えることで、粘膜の腫れを引き締め、炎症を鎮めていく治療法です。以前は「Bスポット療法」とも呼ばれ、1960年代から日本で行われてきましたが、近年その効果が見直され、多くのクリニックで再び採用されています。
この治療の目的は、単に上咽頭の腫脹や炎症を鎮めるだけでなく、自律神経や脳代謝の排泄にも好影響を与えるとされています。

上咽頭擦過治療の手順と痛みの程度

治療は、細長い綿棒に塩化亜鉛溶液を含ませ、鼻から挿入して上咽頭の粘膜を擦過（こすりつける）する方法と口から咽頭捲綿子という器具で上咽頭の粘膜を擦過する方法があります。当院では後者の方法を採用して治療を行っています。処置にかかる時間は15秒ほどですが、薬剤を塗布する際に焼けるような刺激を感じることがあります。通常は我慢できる程度の痛みですが、個人差もあるため、不安な場合は事前にご相談ください。処置後はヒリヒリ感が1～2時間ほど残ることがあります。

治療回数と通院期間

一般的には、週1～2回の通院で、10〜15回の治療が目安です。治療期間はおよそ2～3カ月が理想とされています。途中で間隔が空いてしまうと症状が後戻りして効果が薄れる場合があるため、集中的に受けることが推奨されます。
また、治療が完了しても、風邪などの体調の変化やストレスにより炎症が再発することがあるため、そのような場合は治療を再開する必要があります。

EATの3つの主要な効果

EATには、以下のような3つのメカニズムによる効果が期待されています。

治療の効果判定とゴール

処置中の痛みや出血の程度は、上咽頭の炎症の強さと密接に関係しています。治療を続けることで次第に出血は減り、症状が軽くなっていきます。
治療の完了は、主に以下の3点を目安に判断されます

• 自覚症状がほとんど気にならなくなった
• 処置による出血がなくなった
• 内視鏡検査による上咽頭の粘膜腫脹などの所見の改善

とくに、「1.自覚症状の改善」が重要視されます。

保険適用で受けられる安心の治療

EATは日本では限られた耳鼻咽喉科でしか受けられない治療ですが、保険診療の対象となっており、経済的にも大きな負担なく継続できます。当院では内視鏡検査により、患者さんにも治療経過がわかりやすい診療を心がけています。

「なんとなく不調が続く」「のどの奥がいつも気になる」――そんな症状に、上咽頭擦過療法（EAT）が効果を発揮する可能性があります。単なる局所治療にとどまらず、自律神経や免疫系にもアプローチできる、全身の健康にも寄与する方法として、私たちはこの治療に真摯に取り組んでいます。気になる症状がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。